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Ⅵ.「鼻づまり」の治療(2):新しい治療概念

筆者は、従来の鼻腔手術の限界を打ち破る新しい手術治療を模索し続けてきました。そして約50年前に考案されてその優れた効果から一時世界中で広く行われたものの、涙の分泌障害をきたすため次第に行われなくなった副交感神経切断術(ビディアン神経切断術)を手がかりに、1997年、副作用をきたさない部位で直径0.5~1mmほどの副交感神経末梢枝(後鼻神経)を内視鏡下に露出させ、これを切断する手術―後鼻神経切断術―を世界ではじめて成功させました。

これまでに多くの患者さんを治療してきましたが、この手術は副作用がないだけでなく、従来の鼻腔手術には見られない効果があることがわかってきました。それは下鼻甲介粘膜だけでなく、中鼻甲介を含む広範囲の粘膜の腫れが改善し、「鼻づまり」の治療効果が格段に大きいことです。また患者さんの身体への負担が少なく出血もほとんどない手術のため、年齢の低い小児にも行うことが可能です。

このように優れた特徴をもつ後鼻神経切断術ですが、これだけですべての「鼻づまり」が完治するわけではありません。とくにアレルギー性鼻炎では症状を時々繰り返す可能性があります。あくまでも手術の目標は、完治ではなく、 "副作用のない安全な方法で鼻の呼吸を取り戻し、これを維持しやすい状況を創り出すこと"にあります。このためには、手術だけでなく、鼻洗浄や点鼻薬、ときにない内服薬なども取り入れて、手術後のQOL(生活の質)を保つことも必要です。

鼻は心身の健康につながる大切な空気の通り道です。世界中の子供たちが鼻から呼吸し、笑顔にあふれた健康的な生活が送れることをスタッフ一同願っています。