後鼻神経切断術は、上記したように、これまでの手術にみられない多くの長所をもつ手術です。しかし、この手術だけですべての「鼻づまり」問題が解消するわけではありません。経験的には、アレルギーの関与していない鼻炎では長期間症状がコントロールされる傾向にあるものの、花粉、ダニ、ハウスダストなどが関与したアレルギー性鼻炎では、症状を反復する例が少なくありません。また中には、この手術がほとんど効果を示さない例や、ごく短期間でもとに戻ってしまう例があります。手術から2年以上経過した例のアンケート調査では、「大変満足している」が45%、「手術を受けてよかった」が同じく44%、計89%の例で術前より良好な状態にあることが確認されています。(2010年、日本耳鼻咽喉科学会総会にて報告)。
このように、後鼻神経切断術も一定の限界をもつ治療法であり、「鼻づまり」に対する万能な治療法ではありません。しかしながら、「鼻づまり」を反復する例の多くは点鼻薬などの短期使用ですぐに改善することから、コントロールしやすい状況をつくり出していることも事実です。このことから筆者は、現時点において、発育途上にある小児の「鼻づまり」に対しては、治療目標を完治に置くのではなく、既存の治療法に後鼻神経切断術を組み合わせた"集学的治療"により、鼻の機能を保存したまま鼻からの呼吸を取り戻しこれを維持すること―が最善の策であろうと考えています。集学的治療とは、がん(悪性腫瘍)など難治性の病気に用いられている治療概念で、複数の治療法を組み合わせ、少ない副作用で高い効果を得ることを目的としたものです。後鼻神経切断術は、副作用がなく効果が優れていることから、「鼻づまり」に対する集学治療の基軸となり得る治療法であると考えています。