ヨガや座禅に用いられている呼吸法も、鼻を介した呼吸法―鼻呼吸―であり、精神の安定に有用なことは古くから体験的に知られていました。これらの呼吸法は、近年、ストレスに起因する精神疾患の治療にも用いられています[文献21]。しかし反対に、「鼻づまり」をきたした場合にどのような精神的悪影響をきたすかについては、学術的な研究は進んでいないようです。
現代日本の子供たちは、イライラしやすい、キレやすい、ムカツキやすいなど、感情をコントロールできない傾向にあると言われます。教育学者であり、"息"を身体と精神を結びつけるものとして身体論を展開している明治大学教授斉藤孝氏は、著書「呼吸入門」(角川文庫、2003年)[文献22]の中で、生活スタイルや教育指導の変化などによって、日常生活の中で"息"を自覚する機会が減少し、鼻からのゆっくりとした呼吸から"浅い呼吸"に変わったことが、このような傾向を引き起こした主因であることを指摘しています。
"浅い呼吸"は口呼吸の特徴です。「鼻づまり」が引き起こす口呼吸、そして口呼吸が引き起こす浅い呼吸が、そのメカニズムについては十分に明らかにされていないものの、キレやすい性格を形成し、精神的に不安定な状態を作り出している可能性があることは想像に難くありません。
[文献21] Brown RP, Gerbarg PL. Sudarshan kriya yogic breathing in the treatment of stress, anxiety, and depression: Part Ⅱ―Clinical applications and guidelines. Journal of Alternative and Complementary Medicine 11:711-717, 2005.
[文献22] 斉藤孝.「 呼吸入門」,角川文庫:2003.