もともと鼻は、体が活動する日中(自律神経のうち交感神経が優位の時間帯)は通気性が良く(鼻腔抵抗が低い)、反対に、お休みモードとなる夜間(副交感神経が優位になる時間帯)は通気性が悪くなる(鼻腔抵抗が高い)傾向にあります。これは、鼻腔粘膜の容積静脈は交感神経によって支配されているからで、身体的な活動によって交感神経が活性化されると、交感神経の末端から血管収縮作用のある物質(ノルアドレナリン)が分泌されて粘膜が収縮し、交感神経の緊張が緩んでくる夜間には血液がたまって粘膜が腫れてくるからです。
このような生理的な変動は、鼻が正常な場合には、夜間においても口呼吸を引き起こすほど鼻腔の通気性を低下させるわけではありません。しかし鼻炎があるとこの変動が顕著となることが知られています[文献2、3]。そして日中にはみられない「隠れ鼻づまり」が姿を現してきます。では、なぜ鼻炎があると、とくに夜間において粘膜の腫れがひどくなるのでしょうか?
理由の一つは、体位の変化に伴う重力の影響です。座っている時と仰向けに寝ている時とで鼻の通気性を調べた研究では、正常な人では仰向けになった時の鼻腔抵抗がわずかに上昇しただけなのに対し、鼻炎のある人では約4倍近く上昇することが明らかにされています[文献4][図Ⅰ-4-1]。
またもう一つの理由は、粘膜細胞内の炎症活動が24時間周期で増減しており、夜間から早朝にかけてその活動がピークに達することが明らかにされています[文献5]。鼻閉、鼻水、くしゃみなどの鼻炎症状が、早朝にもっともひどくなるのはこのためです[図Ⅰ-4-1]。
[文献2] Rheinberg A, Gervais P, Levi F, et al. Circadian and circannual rhythms of allergic rhinitis: an episodic study involving chronobiologic methods. J Allergy Clin Immunol 81:51-62, 1988.
[文献3] Ferguson BJ. Influence of allergic rhinitis on sleep. Otolaryngol Head Neck Surg 130:618-629, 2004.
[文献4] Rundcrantz H. Postural variations of nasal patency. Acta Otolaryngol 68:435-443, 1969.
[文献5] Aoyagi M, Watanabe H, Sekine K, et al. Circadian variation in nasal reactivity in children with allergic rhinitis: correlation with the activity of eosinophils and basophilic cells. Int Arch Allergy Immunol 120(supple 1):95-99, 1999.