"呼吸器としての鼻"のもう一つの重要な役割は、肺の中に吸い込まれた空気中に含まれる酸素が血液中に効率よく拡散できるよう、空気の流量を絞る "抵抗器"としての機能していることです。
肺は、数億個もある"肺胞"と呼ばれる小さな袋が集合した器官です。肺胞は気管が何度も枝分かれした末端部にある1枚の薄い上皮に包まれた小さな袋で、その周囲には血液が循環しています[図Ⅱ-4-1]。たくさんの肺胞が開いているほど空気と血液との接触面積が増し、そして空気が肺胞内に留まっている時間が長くなるほど、より多くの酸素が血液の中に浸透してゆきます。
空気の出入り口に位置している鼻は、ここだけで気道(肺に達するまでの空気の通り道)の全抵抗の約半分を占めており、このため、口から呼吸する場合の1.5倍以上の努力が必要とされています9)。吸気時においては、この高い抵抗は、時間をかけた深い吸息をつくり出し、胸郭を広げようとする筋肉の働きを高め、胸腔内の圧力が低下する(胸腔内へ吸い込む力が増す)ため、より多くの肺胞が拡張してきます。同時に、肺胞周囲を流れる血流量も増加してきます[図Ⅱ-4-2]。
また呼気時においては、この抵抗が肺内の空気に圧力(back pressure)を加えて空気の停留時間を延長します[文献11]。すなわち、1)肺胞と血液との接触面積の増加、2)肺胞表面を循環する血液の増加、そして、3)肺胞と血液との接触時間の延長といった、三つの要素により、より多くの酸素が血液中に拡散することが可能になります。
試みに、鼻からと口からの場合の、所要時間を比較してみてください。口からの呼吸は、時間の短い浅い呼吸になることがわかります。
[文献9] Wolf M, Naftali S, Schroter RC, et al. Review article: Air-conditioning characteristics of the human nose. J Laryngol Otol 118:87-92, 2004
[文献11] Hairfield WM, Warren DW, Hinton VA, et al. Inspiratory and expiratory effects of nasal breathing. Cleft Palate Journal 24:183-189, 1987.